「上野原の市民は何を目指すべきか」という上野原インフォメーションが投げかけられた課題について、私の考えを投稿するに当たり、私は「WHAT」より先に「WHY」について私の考えを書きました。その理由は、私たちは「システム」の中で生活しているからです。
「システム」とはどのようなものごとで、どのような考え方なのでしょうか。システムという考え方は機械の専門家が最初に言いはじめたことと思いがちですが、私の知る限り、フォン
ベルタランフィーという理論生物学者が提唱したものの見方・考え方です。この学者によると、近代科学は自然(神・仏と言ってもよいでしょうか!?!)が作り出したものごとの成り立ちを明かすために、お猿がラッキョウの皮をむくように、ひとつまたひとつと全体を部分に分解して分子や原子の世界に辿り着きましたが、人間が必要とする自動車や電話など自然が作り出せないものごとを人間が創造しようとした時にどうしても必要なものの見方・考え方であったとされています。「何かを作り出そうとする時に必ず必要とされるものの見方・考え方」がシステムなのです。
それではシステムとはどのようなものごとなのでしょうか。「システム」という言葉はもとは英語ですから「英和辞典」で調べることになりますが、一番わかりやすい英和辞典の説明は「仕組み」ということになるでしょう。それでは「仕組み」とは何でしょうか。日本語なのだから「広辞苑」や「漢和辞典」を調べようということになりますが納得できる説明はありません。このような時に私は「英英辞典」で調べることが自然の筋道であると考えています。
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みなさんは「英英辞典など手元にないし、分るわけがない」と言われるかも知れませんが、わが国では開拓社から『I.S.E.D.』という「英語を話さない人々のために分りやすく書かれている英英辞典」が昭和17年から絶えることなく出版されています。この辞書の1109ページに書かれていることは次の3点です。@システムは多くの部分から成り立っている、Aシステムを形作っている部分の中に一番重要な部分とそれに比べると重要さが低いがなお重要な多くの部分から構成されている、Bそれらの部分は全体の目的を達成するために一斉に与えられた役割を果たしている。 |
この説明は一般的ですから、メガネを例にとって具体的に述べますと、@メガネはレンズ・フレーム・ツル・ネジ・・・・・で構成されている、A一番重要な部分はレンズであり、レンズに比べると重要度は低いがなお大変重要な部分としてフレーム・ツル・ネジ・・・・・がある、B全体を構成する部分は『視力の調整』というメガネの目的を達成するためにネジ1本に至るまで片時も休むことなく与えられた役割を果たしている(小さなネジがひとつ外れたらメガネは用をなさなくなる!)ということになります。この辞書がすばらしいところは「目的達成のために」ということをしっかりと書き記しているところです。英国で権威があるとされるポケット
オックスフォード ディクショナリーという辞書はシステムを「複雑な全体」と説明していますが、これでは何のことかさっぱり分りません。
この辞書がわかりやすいところはすべての説明に具体例を示していることで、システムについてはこのような説明の後に「鉄道システム」と「人体の神経システム」という具体例が示されています。時計や自動車やパソコンなどはすべてシステムですが、人間もシステムなのです。太陽系(ソーラーシステム)や高気圧(ハイプレッシャーシステム)もまたシステムなのです。私たちが生活する社会も「ソーシアルシステム」という言葉で表現されています。「社会は全体の目的を達成するために多くの部分から成り立っていて、多くの部分が目的達成のために協働していること」に気づいていただけると思います。
「WHAT=なに・具体的目標」ではなく「WHY=なぜ・目的」の議論が先というのは、自然が作り出してくれないものごと(この場合は社会)を作ろう、あるいは、今の社会をもっと住みよくしようとする際には、何はさておいても目的をしっかりと確認しておかなければ何も作り出せないということなのです。こうして目的が決まった後は、メガネのネジが片時も休むことなく与えられた役割を果たしているように、私たちは、社会を構成する部分のひとつとして、社会の目的を達成するためにしっかりと役割を果たさなければならないということになります。ここで次の問題が出てきます。システムの目的が一旦決まったら、私たちは一生それに縛られることになるのでしょうか。この点については次回に考えを述べさせて頂きます。
江戸時代ならば「社会の目的などはお上が決めたらよいことで、自分には関係ない」と決め込んでもそれでよかったのでしょうが、今は民主主義の時代です。アブラハムリンカーンが言ったように「住民に関わりのあるものごとを、自分たち住民のために、住民の手でやり遂げる」時代であります。TN
2007−4−30 谷口ウエノハラ研究室 谷口 文朗
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